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低身長思春期発来について

低身長思春期発来について

元国立小児病院/国立成育医療センター内分泌代謝科部長の田中敏章先生らは低身長を主訴に受診した小児の自然成長を解析して、成人身長になる臨床的指標を検討した。 対象は男子46名、女子37名で、両親の平均身長SDスコアは-1SD前後で、低身長の傾向にあった。
前思春期の身長SDスコアは男女それぞれ-2.09SD、-2.28SDで、思春期開始時の平均年齢・平均身長は、男子12.46歳、133.5cm、女子11.3歳、128.1cmであった。
平均成人身長は男女それぞれ159.3cm(-1.98SD)、147.1cm(-2.08SD)で、思春期の伸びの平均はそれぞれ25.8cm、18.9cmだった。
成人身長と強い相関を示した臨床因子は、男女とも思春期開始時の身長(男:r=0.78, p<0.0001、女子:r=0.65, p<0.0001)で、次いで前思春期の身長SDスコア、Target height(目標身長)であった。
男子は135cm以上で思春期にはいると87.5%(14/16)が成人身長160cm以上だったが、135cm未満で思春期にはいると86.2%(25/29)が成人身長160cmにとどかなかった。女子は132.5cm以上で思春期にはいると87.5%(7/8)が成人身長150cm以上だったが、132.5cm未満で思春期にはいると82.8%(24/29)が成人身長150cmにとどかなかった。
低身長を主訴とした小児において、成人身長に関与する最も重要な臨床因子は、思春期開始時身長であった。
親の低身長傾向は、こどもの成人身長の要因となっていた。
成人身長が男子160cm、女子150cmに達するためには、思春期開始身長は、男子135cm、女子132.5cm以上である事が必要である。

低身長思春期発来での成人身長を改善させる治療

これに対する治療として、蛋白同化ホルモン(プリモボラン)の内服とLHRHアナログ(リュープリン)の併用療法があります。
蛋白同化ホルモン(テストステロンの誘導体である合成ステロイドのうちテストステロンに比べ、蛋白同化作用/アンドロゲン作用比が高いもの)とは成長ホルモンの治療がまだ日本でできなかった頃、多く使用されていた薬剤で、食欲を増進させ、骨の成長に必要な軟骨細胞の原料となる蛋白質の合成を促進します。
また、さらに都合がいいことにアロマターゼ変換酵素により変換されないので、骨年齢を進行させてしまうエストロゲンに変換されません。加えて、男性ホルモンのためフィードバック(脳がすでに男性ホルモンが十分に存在していると認識する)作用により下垂体からのLH、FSHは抑制され、骨年齢の進行に対して抑制的な効果を発揮します。身長に対しては良いことばかりです。欠点としては男性化作用があるため、声が低くなる、筋肉が多くなる、などのため、女児には使用できません、ドーピングとなる薬剤のため、国体などの高いレベルでの競技者では使用できない場合もあります。1−2錠ではまず副作用が生じる可能性はありませんが、3−4錠では1−2%に肝臓の機能障害(中止すれば改善する)が生じることがあります。
LHRHアナログは1月に1回皮下注射します。視床下部に強力に作用して脳下垂体から分泌される性線ホルモン(LH FSH)を強力に抑制します。
LH FSHの分泌を抑制すれば、男児では男性ホルモンであるテストステロンが産生されませんので、骨年齢を促進するエストロゲンも産生されません(エストロゲンはテストステロンからアロマターゼ変換酵素により産生される)。
これらのメカニズムにより、骨年齢を抑制しながら、身長を伸ばしていくことが可能です。この治療は思春期早期に開始すれば7−8cmの成人身長の上乗せが可能です。治療期間は4-5年必要です。
思春期早期を通り越し、すでに声変わりも過ぎ年間の成長が2cm以下になってしまった場合は、蛋白同化ホルモンの治療のみとなりますが大きくは期待できません。中にはここから4cm伸びた例もあるようですが、平均的には2cmくらい上乗せできれば良いのではないでしょうか。
身長を伸ばすことは、容易ではありません。どうしてもある程度の年月は必要です。 低身長の子供が10歳以下で身長が急に伸びてきたら、良いことではありません、早く伸び始めた分だけ早く停止します。身長が伸びる期間が短くなり結果として思春期が開始した時点よりも低身長の程度は悪くなります(図を参照)。
低身長のお子様を持つ親御様は是非とも半年に一度くらいはご自分できちんとお子様の成長曲線を記入し、しっかりと成長率を観察する、または、低身長の治療を専門としている医院などに定期的に通院することをお勧めいたします。(低身長の治療は成長ホルモンの注射をすることだけではありません。)